「文廟(ぶんびょう)」はハノイの定番観光スポットとして、ガイドブックなどにも必ず掲載されています。
しかし、事前知識がないと、なかなか楽しめない場所でもあるのではないでしょうか。知識ゼロで文廟に行くと、「中国っぽい古い建物があるなぁ」という感想で終わってしまうかも。
そこで、この記事では、文廟を訪れる前に、知っておきたいことを、ポイントを押さえて解説していきます。また、行き方や入場料なども、合わせてチェックしてくださいね。
文廟って何なの?
多くの人は、そもそも、文廟って何なの?という疑問を持ちますよね。私も初めてハノイを訪れたときは、そう思いました。まずは、文廟とは何なのか、一緒に勉強していきましょう。
文廟の読み方
「文廟」の漢字の読み方に自信がもてなかったのは私だけでしょうか?(笑)
「文廟」は「ぶんびょう」と読みます。
廟(びょう)は死者の霊を祭る建物のことです。ハノイでもっとも有名な観光施設の一つに「ホーチミン廟」がありますが、これはホーチミンさんを祀っている廟ですね。
文廟は孔子を祀っている
「文廟」は古代中国の思想家であり「儒教の祖」と言われる「孔子(こうし)」を祀った廟のことを意味します。孔子を祀っているので「孔子廟(こうしびょう)」とも呼ばれます。
「え、何で中国の偉い人がベトナムに祀られているの?」と思った方、とても良い疑問です。
文廟(孔子廟)は一つではないのです。
中国はもちろん、ベトナムや日本、韓国のように儒教が広まった国々の各地に孔子を祀った廟が建てられました。ベトナムは日本同様、中国から思想や文化の影響を強く受けている国の一つだということがわかりますね。ご存知の方も多いと思いますが、ベトナムもかつては漢字を使っていました。
さて、ハノイの文廟は、1070年に李朝第三代皇帝リー・タイントンによって建てられました。ベトナム初の長期独立王朝である李朝がハノイに遷都したのが1010年、そこから60年後のことですね。
ベトナム最初の大学「国子監(こくしかん)」
ベトナムは儒教など中国文化の影響を強く受けている国であり、文廟が孔子を祀った廟であるということはわかりましたが、ハノイの文廟は「ベトナム最初の大学」とも説明されます。
「孔子を祀っている場所が大学?」これはどういうことなのでしょうか。
実は、文廟の敷地内に、当時の最高学府、現代で言うところの大学を作ったのです。
中国における近代以前の最高学府のことを国子監(こくしかん)と呼ぶのですが、1076年、ハノイの文廟の敷地内にも、李朝第四代皇帝リー・ニャントンによって「国子監(こくしかん)」が建てられました。
国子監は王子のための学校として創設されましたが、翌年には国王が選抜した高級官僚の子弟にも開かれ、のちには、科挙制度により広い階層に開放されました。その後、グエン(阮)朝が首都をフエに移すまでの約700年間、国子監は偉大な政治家や文学者を輩出してきました。
文廟は孔子を祀る廟でありながら、ベトナムの学問の中心であったわけです。今もベトナムの多くの学生が試験の合格祈願に文廟を訪れています。
ハノイ中心部からの行き方
文廟へはホアンキエム湖から車で10分程度、徒歩で30分程度です。少し距離があるので、タクシーや配車アプリのグラブを使って行くのがいいかもしれません。
ドライバーに見せるために、ベトナム語と英語での呼び方、住所を記載しておきます。ベトナム語の発音は難しいので、無理に自分で発音しようとせず、書いてあるものを見せるのがおすすめです。
文廟
Temple Of Literature(英語)
Văn Miếu – Quốc Tử Giám(ベトナム語)
住所
58 P. Quốc Tử Giám, Văn Miếu, Đống Đa, Hà Nội
徒歩で行く場合は、線路を越え、グエンクエン(Nguyễn Khuyến)通りを歩いて行くのがよいでしょう。文廟の周辺にはお土産屋さんもありますよ。
入口は、文廟の南側、クォックトゥザム(Quốc Tử Giám)通りにあります。
文廟の見どころ
それでは、文廟の中を実際に見てみましょう。2024年3月に訪問しました。(写真は過去に撮影したものやフリー素材も使っています。)
文廟門…第一の門
クォックトゥザム通りから、文廟の中に入ります。
文廟は5つの区画に分かれていて、区画ごとに門があります。文廟に到着するとすぐに、1つ目の門「文廟門」が見えます。文廟門の表側はチケットなしで見ることができますよ。
門の右に竜、左に虎のレリーフが刻まれています。竜は幸運のシンボル、虎は強さと権力のシンボルです。
文廟門は、17~18世紀に、木造から石造りに建て替えられたと言われています。
チケット購入
文廟門の左側にチケット売り場があるので購入しましょう。料金は2024年現在、7万ドン(約420円)です。
ここで音声ガイドも10万ドン(約600円)で借りました。
私は下調べなしで文廟に行ったのですが、日本語にもかかわらず、音声ガイドの説明を理解するのはけっこう難しかったです。やはり、文廟を楽しむには事前の勉強が大事な気がします。
バッチャン焼きで作られた皇帝の道
文廟門でチケットをチェックしてもらい、門を抜けると一つ目の区画です。
真っすぐ伸びる道は「皇帝の道」と呼ばれ、バッチャン焼きのレンガが敷かれています。バッチャン焼きは、ハノイ近郊のバッチャン村で作られる焼き物で、ハノイのお土産としても人気がありますよ。
大中門…第二の門
皇帝の道を歩いていくと、2つ目の門「大中門」があります。
門の上には一対の鯉と瓶がのっています。鯉は困難を乗り越え成功する象徴です。
「登竜門」という言葉がありますが、こんな逸話が由来なのをご存知ですか。「昔、鯉たちにとって登ることは不可能だと言われた激流が中国にありました。そして、もし登ったものがいたら、その鯉は龍となるだろうと言われていました。」
高級官僚への途上にある学生たちは、鯉の姿に我が身を重ねていたのではないでしょうか。
奎文閣(けいぶんかく)…第三の門
大中門を抜けて少し歩くと、ハノイのシンボル的存在の奎文閣(けいぶんかく)があります。文廟門、大中門と門をくぐり抜けてきて、奎文閣は3つ目の門になります。
奎文閣はとても印象的な形をしていますが、「奎星(けいせい)」と呼ばれる学問を司る星を象徴しています。
奎文閣はグエン(阮)朝が都をフエに移した直後の1805年に建てられました。
ところで、みなさん奎文閣をどこかで見た記憶がありませんか。
10万ドン札にも描かれているんですよ。文廟へ行く際は、緑のお札、10万ドン札も忘れずに。
ティエンクアン池と科挙合格者の石碑
奎文閣の先にはティエンクアン(天光)と呼ばれる四角い池があります。
池の両側には亀の背中にのった82の石碑「進士題名碑」が並んでいます。進士とは、科挙に合格した人のことで、石碑には科挙合格者の名前と出身地が刻まれています。
ティエンクアン池に反射した日光が石碑を照らす仕組みになっているとのこと。
石碑の亀の顔がそれぞれ異なるので、よく見てみてくださいね。なかなか、愛嬌のある顔をしている子もいます。
進士題名碑は2010年に世界記憶遺産に登録されました。
ちなみに、ベトナムの科挙は、1075年から1919年まで行われました。ベトナム最後の王朝、グエン(阮)朝になってからは首都がフエに移ったため、科挙の試験もフエで行われていました。中国は1905年に科挙を廃止しているので、それから14年もベトナムの方が長く科挙制度を続けていたんですね。
大成門…第四の門
ティエンクアン池の先に進むと、4つ目の門、大成門があります。
大成門の足下には、赤と白に塗られた狛犬のようなものが柱を支えています。これはゲーと呼ばれる架空の動物で守り神だそうです。
拝堂と大聖殿(孔子廟)
大成門をくぐると、いよいよ孔子が祀られている4つ目のエリアに入っていきます。
門前には祭祀など行われていた大きな庭が広がっています。
そして、堂々と構える拝堂が。
拝堂には祭壇があり「萬世師表」という文字が掲げられています。これは「永遠に人々の模範となる師」という意味で、孔子のことです。
祭壇の両脇には亀の上に立った鶴の銅像があり、鶴を触っている人がいました。ご利益があるそうです。
拝殿に続いて、大聖殿があります。ようやく、孔子の登場です。
中に入るためには、高い敷居をまたぐ必要があります。またぐことで体が斜めになり、孔子の像に向かって自然とお辞儀をする形になります。
受験生はハノイ旅行などしていないかもしれませんが、何かしらの受験がある人は、ここでしっかり合格祈願をしておきましょう。
孔子の他に4人の弟子も祀られています。
啓聖門…第五の門
大聖殿の裏手に進むと5番目の門「啓聖門」があります。ここからが先が、ベトナム最古の大学、国子監のエリアになります。
国子監
既に書きましたが、国子監は、1076年、リー・ニャントンによって建てられました。1946年、抗仏戦争のときに破壊され、現在の建物は2000年に再建されたものです。
建物一階の中央には国子監の教師だったチュー・ヴァン・アンの大きな木製の像が祀られています。
チュー・ヴァン・アンは、1292年、現在のハノイ市の南部、タインチー区で生まれました。知識に精通しながらも、朝廷で官職に就くことはなく、教職に生涯を捧げた人で、教師の神様と言われています。
1階には、他にも当時使用されていた教材や学生服が展示されています。
国子監は2階もあります。
2階にも木像がありました。事前知識なしで行くと、敷地内にたくさんの像があって、「いったい誰?」となってしまうので、予習しておきましょう。
この3人は文廟に深くかかわる皇帝です。
- 向かって右の人物…1076年に国子監を建立(リー・ニャントン)
- 真ん中の人物…1070年に文廟を建立(リー・タイントン)
- 向かって左の人物…1484年に進士題名碑を建立(レー・タイントン)
国子監の右側には太鼓。
左側には大きな鐘があります。
どちらも新しく、太鼓は2000年に、鐘は2009年に設置されたものです。
国子監が文廟の一番奥の建物になります。出口は、入口とは異なり、国子監エリアに入ってすぐの左右にあります。音声ガイドもここで返却できますよ。
右側の出口にはお土産屋さんがありました。なかなか、おしゃれな商品がそろっていましたよ。
ナイトツアーも開催中
今回、私は行くことができなかったのですが、「ナイトツアー」も開催されています。目玉となるのは3Dプロジェクションマッピングショー。伝統音楽のパフォーマンスもあるようです。
開催日:水、金、土、日の18時30分~22時30分
料金:19万9千ドン(約1200円)
アオザイ写真もおすすめ
文廟へはアオザイを着て行くのもおすすめです。ベトナムらしい建物が多くある文廟は、思い出の1枚が撮れること、間違いなしですよ。
アオザイはハンザ市場地下のバッチャン焼き屋「バンブー」でレンタル可能です。
入場料・営業時間・住所
営業時間:8:00-17:00(無休)
入場料:70,000VND(2024年3月現在)
※音声ガイドは10万ドン(日本語有)
参考にしたサイト